樟脳粒の動きから見る生物学的適応について

 

物理学で粒子といえば力学法則に従って受動的に運動する質点をイメージしますが、実は能動的に運動する粒子がさまざまな形で自然界に存在しています。このような粒子を自己駆動粒子と呼びます。その一つの例として樟脳粒子があります。樟脳は楠からとれる有機物であり、昇華性をもつ固体物質です。基本的に水には少し溶けるのですが、少し溶けると表面張力を低下させます。この表面張力の低下によって樟脳は駆動します。そして、この樟脳粒をはじめとした自己駆動粒子の運動は、生物のもつ走化性(単一の細胞や多細胞の生物体に加え、細胞や細菌などの周囲に存在する特定の化学物質の濃度勾配に対して方向性を持った行動を起こす現象)に似ているといわれています。
樟脳粒のほかにも様々な自己駆動粒子があり、この自己駆動粒子の運動を数理モデルで解析していくことを主な軸として取り組んでおり、最終的には生物の運動機構、並びに、外界の変化にすばやく対応していく、生き残り戦略について物理的観点から考察していければと考えております。